映画

映画「花束みたいな恋をした」の感想

遅ればせながら僕も視聴したので一応感想を残しておきたい。坂元裕二の脚本がどうとかそういう映画通の感想や分析はできないのだけど、色々と思うことがある作品だったのでここに言語化しておきたいと思ったからだ。まずこの作品はティーンから20代前半のまさに僕が直近通ってきたサブカル好きあるあるがふんだんに盛り込まれているのが特徴なのは言うまでもない。京王線の明大前駅できのこ帝国の「クロノスタシス」を歌うなんてまさに大学時代の僕じゃんと思った。そしてサブカルマウントという非常に恥ずかしい経験を追体験させられるから見ていて辛い。押井守を分からない人を見下したり、ワンオクを「聴ける」なんていうセリフは「JPOPが嫌い」という僕そのものだ。そういえばモテキの映画の主題歌で「JPOPが嫌い」という歌詞があって思い出したんだけど、花束みたいな恋をした(以下、花恋)は現代版モテキとも言えそうだ。とにかくこの作品には固有名詞がたくさん出てきてサブカル好きには共感できるし、またサブカルマウントを取っちゃっている人には強い同族嫌悪を覚えるはずだ。

本作品はサブカルマウントあるあると同時に5年間の男女の恋愛の始まり〜終わりまでを描いているのはタイトルや予告を観るだけでも分かるはずだ。サブカルマウントを取る人って大衆のポップカルチャーを消費しない自分が特別でありたいと思う故ににそのような行動に出る。思春期の青年は他人とは違う何かを自分が持っていることで自分の価値を見出してしまいがちだ。例えばライトノベルでも青年誌でも何か特別な力を持った主人公が、力を持たない世界で活躍するというのがお決まりのパターンでそれに自分を重ね惹かれる。

そしてサブカル青年達はこんなにも特殊で奥深いコンテンツを消費している自分が、他者と違うことを確認したいがために、他者を時に卑下してしまう。花恋はそんな男女が恋愛関係になり「(サブカル好きの)自分達の特別な空間」と「つまらない大衆」を比較し、自分達の特別な空間をお互いに確認しながら愛を育む。結局は自分達も社会の一員に組み込まれ、彼らが卑下していたつまらない大衆化していくっていうのが物語の本筋だが。そこにはサブカルマウントをとってしまう若者を否定的に捉えるメッセージがある訳でもなく、大衆化していく主人公を憐れむメッセージがある訳でもない。視聴後に残るのは彼らの過ごした恋愛的な5年間がとても愛おしいものだったという感情だけである。ちょっと無理がある解釈かもしれないけど、タイトルにある「花束」は、恋愛でいう「繋がり・共感(麦くんと麦ちゃんで言えばサブカル好き・サブカルマウント)」を、鮮やに彩る花と捉えているかもしれない。恋愛というのは彩り豊かな花(共感・繋がり)を沢山束ねていく行為で、束ねた花はとても美しく愛おしいものとなる。花はナマモノでいつか枯れてしまうけど、枯れる過程ですら人間的で愛おしい。そして花束は記憶の中で永久に残り続け、本当の意味で消滅することは無い。

サブカルマウントを取る主人公達が実は大衆と何も変わらない所謂「パンピー」だったっていうのも、本作品の描写にある。よくよく聞くと天竺鼠のことを菅田将暉演じる麦くんは「てん”じゅく”ねずみ」と発音しているらしい。彼らの消費するコンテンツは、言わばサブカル好きなら多くの人が通る「浅い」ものだし、彼らがコンテンツに対して「何が良くて・何が悪いのか」評価している描写も描かれていない。つまるところ彼らはファッションサブカルとして描かれている。ラストの別れのシーンで、告白した時に利用したジョナサンに新たなカップル現れる。新たなカップルは麦くん絹ちゃん同様にお揃いのスニーカーを履き、天竺鼠に変わって羊文学の同じライブを見たことで盛り上がる。この描写は、彼らは最初から特別な2人ではなくて、ありふれたごく普通のちょっとサブカル好きな男女だったことを表している。ただ2人が出会って、恋愛に発展していく過程でお互いに「特別」と錯覚していくこととなっただけなのだ。これは、恋愛と言うのはカップルの作り出す空間が「客観的な事実として特別」なのではなく、彼らの中で存在する世界、言わば「二人だけの空間において特別」であるが故に、美しく人間的で愛おしいと描いているんだろうか。

本作品を見ることで、麦くん絹ちゃんの様に、自分と趣味嗜好が会う異性と花束みたいな恋をしたいと思うのはいささかナンセンスかもしれない。趣味嗜好が会う異性と恋愛関係に発展することは理想だけど、社会と隔絶された二人だけの空間が「(客観的な事実としての特別でなくとも)二人だけの空間おいての特別」であればよいのではないかと考える。誰が見ても美しい花を束ねていくことではなく、二人だけが美しいと感じるの花を束ねていけばよいのではないか。例えば、同じ左利き同士だとか同じところにホクロがあるとか、そんなつまらない容姿の共通点をお互いに特別だと思えば美しい一輪の花になるのではないだろうか。

最後にSpotifyに花恋公式から花恋関連の曲をまとめたプレイリストが公開されているので下に置いておく。多少は本作品のサブカル具合を感じることができるから是非チェックしてみてほしい。

投稿者

teramaro4005@gmail.com
江戸川区に住むメーカー営業職に勤める25歳男です。捻くれてます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

熱海旅行のしおり

2021年2月22日

自己顕示欲との戦争

2021年2月26日